はぐれの徒然なるままに(仮)

肩こりと老眼が進行中の中年男性による回顧録

横溝正史の「悪魔が来りて笛を吹く」再読

 

悪魔が来りて笛を吹く」なんて、印象的なタイトルなんだろう!
初めて読んだ時、ただそう思いました。
そして、改めて読み直すとその怪奇小説的な部分が、
しっかりと書かれている事に気づかされました。
事件の舞台となる洋館、そこに住む旧貴族の一族、
広間で行われる砂占い(降霊術)、死んだ人間が目撃される。
この設定が非常に怪奇小説的なのです。

そして、話の流れも怪奇小説的です。
・事件の始まりは、ある人物の自殺。
・その人物は「フルート奏者」で、
 「悪魔が来りて笛を吹く」という曲を作曲して残しました。
・自殺した人物が残した手記には「悪魔の紋章」と書かれた文様。
・ある日、自殺した人物が残した曲が夜中に関係者一同が住む邸宅に、
 突然流れだします。
・そして殺人事件が起き、そこには「悪魔の紋章」と同じ文様が。
・さらには、自殺した人物と思われる人物も事件現場で目撃されます。
・そして、自殺した人物の足取りをたどる金田一耕助

さて、この小説中では金田一耕助はこの様な移動をしています。
序盤:事件が起きた邸宅(東京)。
中盤:事件調査の為に明石の「三春館」という旅館に宿泊。
終盤:事件が起き、再び東京へ向かう。

初めて読んだ時は、中盤部分はそんなに印象的でありませんでした。
今回、再読した時に、この中盤の重要性に気づきました。
その重要性とは、明石の記述には、怪奇小説的な部分が無いことです。
明石では金田一耕助は調査の為、
旅館の女将、番頭、侍女と会話をするのですが、
その会話が非常にテンポが良く、現実的なのです。
そして、金田一耕助が泊まる「三春館」は、
小さな庭園があり、落ち着いた雰囲気の旅館でした。

つまり、こういう事です。
序盤は、怪奇小説的に話しが進みます。
中盤には怪奇小説とは、真逆の風光明媚な明石を出す事で、
読者の頭をすっきりさせて、
終盤では読者を再び、怪奇推理小説の世界に落とし込む!
横溝正史はそれを狙っていたのではないか?
自分はそう感じました。