自分は推理小説の中で「快楽殺人者が犯人」という設定は、
自分とは相性が悪いです。何故、相性が悪いのか?
それは犯人が殺人に対する動機がないと、小説的に面白くないからです。
でもこの「盲獣」は違います。この小説に出てくる殺人者は、
殺人を犯し、死体をおもちゃにして、血の匂いで興奮する快楽殺人者です。
でもそこには、最高の感触を求めるという狂った動機があるわけです!
なので、この小説は、自分のお気に入りの作品のひとつです。
この小説の殺人者は、目が見えない盲人です。
その殺人者のあるセリフを要約します。
【盲人の世界に残されているものは、音と匂いと味と触覚ばかりだ!
そして、触覚こそ、自分に残された唯一無二の快楽だ!】
その唯一無二の触覚を求めて、理想的な肉体を持った女性を拉致します。
そして盲人と女性は、暗闇の中という異常な世界で共同生活をします。
ここの文章表現が本当にいいのです!
読んでいくと、その異常な暗闇の空間にいる2人を想像してしまい、
触覚に憑りつかれていく2人の様子が怪しくもあり、破滅的でもあります。
そして、2人の異常な生活は突然に破綻します。
人間の見る、聞く、匂い、味覚、触覚、排泄は人体にとって必要である為、
ある種の刺激として脳に情報をおくります。
そして、人間は刺激に慣れると更なる刺激を求めます。
盲人は女性に飽きて、殺害してしまいます。
再読する事により、この殺害シーンがこの小説の核心部分だと感じました。
触覚に憑りつかれた盲人は、この殺人行為で更なる快楽を得たのです。
そして、この瞬間から、触覚と殺人に憑りつかれた盲獣となったのです!
盲人も彼女も暗闇で生活をする事で、視覚以外の感覚が鋭敏になりました。
つまり、盲人が殺人を起した時、
盲人は、人より異常に鋭敏になった感覚の全てで殺人を経験したのです!
被害者がこと切れる瞬間の声、血の匂い、血の味、血液の手触り、
消えてく温もり、刃物を肉体に突き立てる感覚は、
盲人にとって、今まで感じた事のない刺激であり快楽だったのでしょう!
そして、更なる刺激を求め始めたのです。
蛇足:この作品は「羊たちの沈黙」と何処か似ていると思います。