はぐれの徒然なるままに(仮)

肩こりと老眼が進行中の中年男性による回顧録

有栖川有栖の「双頭の悪魔」再読

推理小説家:有栖川有栖の「双頭の悪魔」。

有栖川氏の作品で、自分が一番お気に入りの長編推理小説です。

推理小説の設定で「嵐の山荘」というのがありますが、

その設定を使用した小説の中では、最高の作品だと自分は思います。
*「嵐の山荘」とは外部との連絡もとれない、閉じられた空間で事件が起きる設定です。


まず、この小説「双頭の悪魔」の核となる設定は、

【2つの村が大雨で孤立して、2つの村を繋ぐ橋も落ちてしまう。

そして、それぞれの村で殺人事件がおきる】という設定。
その設定について、簡単に書いてみます。

小説の舞台となるのは、山奥にある木更村と夏森村という架空の村が舞台。

この2つの村の間には、龍森川という川が流れていて、

お互いの村の交通手段は橋のみという立地です。

まず、木更村で殺人事件がおきます。

そして、連日の雨で増水した川で濁流が起きて、橋が倒壊してしまいます。

その為、木更村は電気も電話も通じない状態になってしまいます。

もう片方の村、夏森村の方は連日の雨によって、土砂崩れが発生。

その土砂崩れの為に、街へ行く道路が封鎖されてしまいます。
そして夏森村でも、殺人事件がおきます。

つまり、2つの村は、ほぼ同時に外界から遮断されてしまいます。
そして、木更村と夏森村の様子が交互に書かれながら、

話が展開していきます。

今回、再読して気づいたのですが、

この文庫本の「後書き」に題名に関した事が書かれていました。
作者の有栖川氏は「双頭の悪魔」という題名に関して当初は、

「なんと古臭い、虚仮威し(コケオドシ)なのだろう?」と思ったそうです。
しかし、周りの関係者から「双頭の悪魔」という題名いいですよ!
と評価されて、複数の題名の中から、この「双頭の悪魔」に決めて、

作品の詳細を詰めていったそうです。


自分は「双頭の悪魔」という題名で、本当に良かったと思います。

何故なら自分は本屋で、その「古臭い、虚仮威し」の題名に惹かれて、

この小説を購入したからです。

そして作者の有栖川氏は、この題名をつけた事で、

今までとは違う感覚で執筆したのではないか?と考えました。


元々、有栖川氏はエラリークイーンから影響を受けており、

この【双頭の悪魔】以前に発表された推理小説は、

エラリークイーンを意識して書かれています。
でも、この【双頭の悪魔】では、今までの作品とは違う部分を感じます。
その部分とは、第一の殺人事件が起きた木更村の描写です。

木更村の描写を読んでいくと、関係者の人数、小道具の使われ方などは、

クリスティーの「そして誰もいなくなった」を連想します。

また、木更村にある鍾乳洞は横溝正史の「八つ墓村」を連想します。

そして第一の殺人の被害者の人物像を、

関係者が江戸川乱歩の「パノラマ島奇譚」に例えて会話をしています。


でも、第二の殺人が起きた夏森村の方は、エラリークイーンを連想します。
被害者の前後の行動、証拠の検証、関係者同士のアリバイの検証。

そして「配達されなかった1通の手紙」というセリフ。

このセリフは「配達されなかった3通の手紙」という邦画を、

意識したのではないか?と考えてしまいます。

補足:邦画「配達されなかった3通の手紙」の原作は、クイーンの「災厄の町」。


そこから、自分はこの様な妄想をしました。
有栖川氏が「古臭くて、虚仮威し」と感じた「双頭の悪魔」という題名。

しかし、その題名を付けた事により、

有栖川氏自身に何らかの形で影響を与えたのではないか?、

その影響によって、クイーン以外の古い推理小説の世界観を連想していき、

この「双頭の悪魔」を書き上げたのではないか?と考えてしまいます。

 

この【双頭の悪魔】文庫本の初版は1999年。

もう、20年以上前に発表された小説ですが、

今でも、楽しく読める推理小説です。

そして、自分はこの「双頭の悪魔」は過小評価されている小説ではないか?

と思っています。