はぐれの徒然なるままに(仮)

肩こりと老眼が進行中の中年男性による回顧録

クリスティーの「5匹の子豚」再読➁

1943年に発表された「5匹の子豚」という小説は、
クリスティーが始めて【回想の殺人】を使用して発表した小説です。

*「回想の殺人」とは過去に解決された事件、もしくは未解決事件を再調査する事で、

  事件の真相にたどり着くという形式です。

前回の記事では【5匹の子豚】を再読した感想を書いてみましたが、
今回は、クリスティーが何故【5匹の子豚】を書いたのか?について書いてみたいと思います。

まず、クリスティーが創作してきた推理小説の中でも、
ここまで話の「起承転結」がハッキリとした小説は、

この「5匹の子豚」だけだと思います。
そして、文庫版の「5匹の子豚」に編集されている作品解説によると、
クリスティーは「スリーピング・マーダー」を書いた後に「5匹の子豚」を書いたそうです。

「スリーピング・マーダー」は1976年に発表された小説です。

そして、この小説も【回想の殺人】の形式で書かれています。
元々、この小説はクリスティーが亡くなった後に発表する取決めだった為、
彼女が死去した1976年に発表されました。

自分は、彼女がこの小説を生前に完成させた事までは知っていましたが、

「5匹の子豚」の作品解説を読むまでは「スリーピング・マーダー」の執筆時期を知りませんでした。

なので、ここからは自分の妄想になりますが、
クリスティーが「スリーピング・マーダー」を完成させた時、

彼女は【回想の殺人】をもっと自分流にアレンジできないかと考えました。

そこで彼女は【回想の殺人】について改めて考えました。

【回想の殺人とは過去に起きた事件を解決する話にしないといけない。
そして、過去に起きた事件の為、事件の死体も出せないし、

事件の物的証拠もない状況で話を構成しないといけない。
つまり、今まで書いてきた推理小説で使用したトリックは意味がない。
なら、トリックが無い推理小説とはどんな書き方をすればいい?】


そこで彼女は、話の構成をなるべくシンプルにして、
過去の事件に居合わせた人物達の発言や動きを意識して、
もう一度【回想の殺人】を書きました。それが【5匹の子豚】でした。
そして、この小説を書く事で彼女はトリックに変わる手法を見つけます。

その手法とは【場面と登場人物のセリフを意識的に組み合わせる事で読者をミスリードさせる】という物でした。


改めて言いますが、これは自分の妄想です。
しかし、彼女はこの「5匹の子豚」書いた後に【回想の殺人】の小説を何作か発表しています。
また、【場面と登場人物のセリフを意識的に組み合わせる事で読者をミスリードさせる】手法を使用した小説も何作か発表しています。

そして「ゼロ時間へ」という小説では、この手法が主軸になっています。
なので次回は「ゼロ時間へ」について書いてみます。