はぐれの徒然なるままに(仮)

肩こりと老眼が進行中の中年男性による回顧録

金田一耕助の最後の事件について➁

推理小説家:横溝正史の長編小説「病院坂の首縊りの家」。

この小説が連載された1975年当時、小説には【金田一耕助最後の事件】という副題がついていました。

しかし、作品発表順には1978年から連載が始まった「悪霊島」が金田一耕助最後の事件になります。

なので、今回は「病院坂の首縊りの家」に何故【金田一耕助最後の事件】という副題がついたのか?について書いてみます。

1975年、横溝正史は以前に書いた中編小説を再構成して、
約10年ぶりに金田一耕助の新作「迷路荘の惨劇」を発表します。
そして、その「迷路荘の惨劇」を執筆している時、横溝正史の元に小説の連載依頼が入ります。
しかし、当時73歳を迎えた横溝正史にとって、
小説の連載には体力的な不安がありました。そこで、彼はこう考えました。

『今、書いている「迷路荘の惨劇」みたいに、自分の過去作品をベースにして構想を練り、更に連載を1本に絞れば、今の自分でも連載ができるのではないか?』


この様に考えて横溝正史は、
自分が過去に書いた未完の小説【病院横町の首縊りの家】をベースにして、
約10年ぶりの新作【病院坂の首縊りの家】の連載に取り掛かります。
*同時期に横溝正史長編小説「仮面舞踏会」を発表していますが、今回は敢えて省略させてもらいます。

さて、横溝正史の長編小説「病院坂の首縊りの家」は前半と後半とでは時代背景が違います。
まず、前半は東京で起きた殺人事件を金田一耕助が調査しますが、
事件の真相は解明されず終了します。
そして後半からは、その事件から20年後の話になります。
なので、この小説前半では40代の金田一耕助が登場して、
後半からは60代の金田一耕助が登場します。

そして、横溝正史は「病院坂の首縊りの家」を連載している最中に、
アガサ・クリスティーの小説「カーテン」を入手して読み始めます。

haguture.hatenadiary.jp

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横溝正史がクリスティーから受けた影響について書いた記事を貼っておきます。


1975年に発表されたアガサ・クリスティーの「カーテン」。
この小説を読んだ時、横溝正史は驚いたと思います。
何故なら、この「カーテン」は名探偵:ポワロ最後の事件という設定の為、
小説では探偵業から引退した年老いたポワロの姿が書かれていますが、
この設定がちょうど今、横溝正史が書いている「病院坂の首縊りの家」と類似した設定だからです。
そして、【カーテン】を読んだ事で横溝正史にある変化が起きます。
その変化について、横溝正史は以下の様に記述しています。


【私はこの年老いた金田一耕助と等々力警部のコンビを書いているうちに、そぞろ無常観に打たれざるえなくなり、これ以上ふたりの老醜ぶりをさらけ出すのもいかがなものかと考え、この物語を持って金田一耕助最後の事件にしようと思いついたのである】
補足:等々力警部とは金田一耕助の相棒的な人物のひとり。


横溝正史は【迷路荘の惨劇】が完成した1975年頃から、

金田一耕助シリーズ】を3本の作品で締めくくる構想をしています。
そして、その第一弾として【病院坂の首縊りの家】は書かれましたが、
この小説は当初は中編小説の予定でした。
しかし、執筆中の横溝正史の心境の変化により、
この小説は金田一耕助の最後の姿が書かれた長編小説となり、

小説の副題に【金田一耕助最後の事件】とつけられました。
その後、横溝正史は【金田一耕助シリーズ】を締めくくる第二弾「悪霊島」の連載に入ります。なので次回は「悪霊島」について書いてみます。

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*今回の記事は横溝正史のエッセイ集「真説:金田一耕助」を参考にして書いています。

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