はぐれの徒然なるままに(仮)

肩こりと老眼が進行中の中年男性による回顧録

江戸川乱歩の「人間椅子」再読

 

フェチ(フェティシズムの略称)とは、
「特定の物や状態に、強い性的興奮を覚える事」とあります。

江戸川乱歩はフェチの概念を、自分に教えてくれた作家です。
その代表作で【人間椅子】という短編小説があります。

さて、小説の始まりは、ある女性小説家の元に原稿が届きました。
その原稿は、ある男の奇妙な告白でした。
その告白とは、彼は自分の作った椅子の中に入りこむという内容でした。

この作品の凄いと感じるのは、
触れる事にここまで拘り、読者に色々な感情を想像させ、
読み進めると、頭の中に勝手に理想の女体のアウトラインが浮かびあがり、
その女性の吐息も、肉体の温もりも、そして感触も想像してしまう事です。
そして、この小説は非常にワイセツなのです。
ではなぜ、ワイセツと感じたのか?

小説家の三島由紀夫は著作「不道徳教育講座」の中で、
「男性目線のワイセツ」について、定義してます。

➀躍動していない女性の肉体だけに対する性欲であり、
 これは観念的(頭の中で考える様)なものである。

➁ありえない事がおきた時に起きる、偶然性が必要である。

つまり男性から見れば、女性の肉体は常にワイセツなのです。
そこになんらかの偶然がおきて、いつもは見えない肉体部分が見えた瞬間、
その部分を、男性は集中して観察してしまい、
その部分にたいして性的なものを感じるのです。

具体例を出すなら、目の前に長髪の女性がいます。
その後ろ姿を何気なく見てたら、その女性が急に髪をかき上げました。
その瞬間、垣間見える女性のうなじに男性の視線はいきます。

この【人間椅子】に出てくる彼は椅子の中で身動きが取れない状況です。
そして、視界は椅子の中なので常に暗闇です。
だから彼は、彼に座った人物の吐息、温もり、感触を全身で感じ取り、
頭の中で想像します。これはワイセツの定義➀に該当します。
そして、彼の「椅子の中に入る」という異常な状況は、
ワイセツの定義➁に該当します。
そして彼はこの状態に陶酔しています。この状態は、
フェチの「特定の物や状態に、強い性的興奮を覚える事」に該当します

つまり、
フェチとワイセツが重なり合った作品がこの【人間椅子】なのです!