はぐれの徒然なるままに(仮)

肩こりと老眼が進行中の中年男性による回顧録

戦地に行った「金田一耕助」と帰還した「金田一耕助」は同じ人物か?

推理小説の「顔の無い死体」というトリックは、実は虚偽自殺も、
条件によっては「顔の無い死体」のトリックに分類されます。
※具体例を出すと、遺書と所持品を残して、人物Aは自殺した状況だが、
実は人物Aは生存している。

横溝正史は「一人二役」と「顔の無い死体」という2つのトリックの調合をよく使用しました。
そして、ある出来事を絡め、この2つのトリックの調合を使用してます。
そのある出来事とは「戦争」です。要約すると以下の通りです。

人物Aは戦争の為、召集され戦地へ行く。

終戦後、戦地から帰還した人物Aは顔に大けがをしている為、
顔全体に包帯を巻いている。所持品で人物Aと判断されて故郷へ帰る。

さて、人物Aは本当に人物Aなのか?
この流れが横溝正史の2つのトリックの調合+戦争を合わせた設定です。


角川映画 「犬神家の一族」より スケキヨ画像

2つのトリックの調合+戦争を合わせた設定で、
有名なのは「犬神家の一族」のスケキヨです。
ですが、横溝正史は主人公の金田一耕助に対しても、この設定を行います。

金田一耕助シリーズの第1作目が「本陣殺人事件」です。
しかし、金田一耕助は「本陣殺人事件」の後、
戦争により召集されて、戦地に向かいます。
そして終戦後、戦地から帰還した金田一耕助は、
戦友の遺言を携えて「獄門島」に向かいます。だから、
「獄門島」は金田一耕助が戦地から帰還して初めての事件になります。

もしも、金田一耕助が双子だったら、
「本陣殺人事件」を解決した金田一耕助は、実は戦死していて、
生き残った方が所持品をすり替え、名前を偽り、
金田一耕助として帰還した!という妄想もできます。
ですが、金田一耕助に双子の兄弟がいるという設定はないです。
では何故、横溝正史金田一耕助を戦地へ向かわせたのか?

順をおって妄想します。横溝正史自身の手記に書かれてますが彼は、
海外の作家から多大な影響を受けてます。
第1作目「本陣殺人事件」はジョン・ディクスン・カー(密室殺人の大家)
からの影響を受けていました。
その後に発表された第2作目は前回取り上げた「獄門島
その次の第3作目が「黒猫亭事件」という短編小説です。
この第2作目、第3作目は、連載期間が重なっているので、
この2作は同時進行で制作されてます。

そして、この2作品から戦地から帰還した金田一耕助が登場します。
※補足
「黒猫亭事件」の設定では、
金田一耕助が「獄門島」の事件を解決した後となっています。

第2作目の「獄門島」はアガサ・クリスティー(ミステリーの女王)からの
影響があったと横溝正史自身が名言してます。
第3作目の「黒猫亭事件」では「一人二役」と「顔の無い死体」
という2つのトリックを使用した作品になっています。

第1作目「本陣殺人事件」と第2作目「獄門島」の違いはなんなのか?

「本陣殺人事件」が怪奇小説的な雰囲気と密室殺人トリックの作品で、
ジョン・ディクスン・カー(密室殺人の大家)からの影響が大きい。
「獄門島」は人間の愛憎劇と複数の推理小説の技法を使用した作品で、
アガサ・クリスティー(ミステリーの女王)からの影響が大きい。

つまり、横溝正史自身が推理小説の創作方法を変えた為に、
金田一耕助は、戦地に行ったのではないでしょうか?
金田一耕助に1回死んでもらうために・・・
自分はそう考えてしまいます。