はぐれの徒然なるままに(仮)

肩こりと老眼が進行中の中年男性による回顧録

横溝正史の「本陣殺人事件」再読

自分は推理小説を読みますが、密室トリックとは相性が良くありません。
その為、密室トリックが登場する小説には感情移入が出来ません。
なので、若い時に読んだ角川文庫版「本陣殺人事件」の印象は、
【「本陣殺人事件」よりも、この文庫本に編集されている「黒猫亭事件」の方が面白い!】と、いうものでした。
そして、それ以来「本陣殺人事件」を読み返してなかったのですが、
最近、何故か読み返したくなったので再読してみると、
自分が見落としていた!というよりも忘れていた設定を見つけました。
なので、今回はその事について書いてみます。

haguture.hatenadiary.jp

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*「密室トリック」と「黒猫亭事件」について書いた記事を貼っておきます。


横溝正史の『金田一耕助シリーズ』の1作目「本陣殺人事件」。
この作品のあらすじを簡単に説明すると、人が出入りした形跡がない
【離れの座敷】で起きた事件を金田一耕助が解決するという話です。
そして、【本陣殺人事件】で自分が忘れていた設定というのは、
この小説は登場人物が過去の事件について、執筆するという構成で書かれていた事。
つまり、叙述トリックが使用されていた事を忘れていました。


では何故、自分は叙述トリックの事を忘れていたのか?
それは「本陣殺人事件」は密室トリックがメインの為、
この小説の叙述トリックは【アガサ・クリスティー】の【あの小説】の様なインパクトがありません。その為、自分は忘れていたのです。
なので、叙述トリックという事を意識して【本陣殺人事件】を再読したら、
今頃になって【黒猫亭事件】と同じ構成をしている事に気付きました。
補足:「叙述トリック」とは【事件の当事者ではなく、他の第三者が事件を記述する形式】で書かれた文章で読者をミスリードする手法。

推理小説を何作か読んでいくと読者は推理トリックに慣れてきます。
その為、顔の無い死体が出てくると【犯人と被害者が入れ替わっているな】と思い、
密室の殺人が出てくると【現場の状況から、あのトリックかな?】と読者は考える様になります。
そして、そんな読者に対して横溝正史は以下の様な事を問いかけていると、
自分は妄想してしまいます。

【密室の殺人も顔の無い死体も推理小説の王道的トリックの為、
色々な推理小説で使用されたけど、密室の殺人や顔の無い死体について、
この小説を読んでいる貴方はどう思う?。
私?私は物足りないと思う。だから「本陣殺人事件」と「黒猫亭事件」を
書いてみたけど、お気に召すかな?】



*角川文庫より引用した「本陣殺人事件」表紙別バージョン。

さて、この記事を読んでくれた貴方に聞きたい事があります。
それは【貴方には、オタク的な所がありますか?】という事です
何故、この様な事を聞くのかというと「本陣殺人事件」も「黒猫亭事件」も横溝正史がある種のオタクでなければ書けない小説だからです。
どういう事かというと、オタクという人種は素晴らしい作品を見ると、
【この作品は素晴らしい!でも、あの部分をこうしたら、もっと素晴らしい作品になるのに!】と、自分が見た作品が素晴らしいほど、脳内で再構築(妄想)する傾向にあります。
そして、大部分のオタクは脳内で再構築した時点で満足してしまいます。
ですが、そのオタク達の中からごく少数ですが、自分が脳内で再構築した作品よりも更に素晴らしい作品を作ってしまう人がいます。
つまり、横溝正史が読者の立場で推理小説を読み漁った時には、
【お?この密室トリックは凄いな!でも、自分ならこうするかも?】とか、
【あの死体と、この人物が入れ替っていた!でも、自分なら・・・】とか、
読んだ作品ごとに脳内で再構築したはずです。
そして、それが形になったのが【本陣殺人事件】であり【黒猫亭事件】だったと再読して思いました。
補足:角川文庫版「本陣殺人事件」には「車井戸はなぜ軋る」という小説も編集されていますが、今回の記事では敢えて取り扱いませんでした。

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