はぐれの徒然なるままに(仮)

肩こりと老眼が進行中の中年男性による回顧録

カレル・チャペックについて➁  「山椒魚戦争」再読

チェコの小説家:カレル・チャペックが、

1936年に発表した長編小説「山椒魚サンショウウオ)戦争」。

まずは、この小説のあらすじを簡単に説明します。


真珠を採取できる漁場を探していたヴァン船長は、

ある島で原住民から「海の魔物」と恐れられている種族に遭遇します。

その種族とは「海に生息する未知のサンショウウオ」でした。

このサンショウウオの特徴は、

人間と簡単なコミュニケーション(飼犬レベル)がとれて、

更に、前足を使って簡単な道具を使用できる事でした。

そこでヴァン船長は、その種族を使って真珠を取り始めました。

その結果が自分の想像以上だった為、

ヴァン船長は資本家のボンディ氏と手を組み、その種族を利用した、

ある非合法なビジネスを展開していきます。

その結果、その種族は南海の色々な島で生息していきます。

その為、人々はこのサンショウウオの存在に気付き始め、

この「未知のサンショウウオ」の研究が始まります。

サンショウウオの研究が進むにつれ、

この種族には感情がないという事、そして繁殖方法、品種改良方法など、

様々な研究成果がでました。

そして、その研究が進んだ結果、このサンショウウオは人間に変わる、

新たな労働力として、世界中に拡散していきます。


さて、この「山椒魚戦争」は奇妙な形で小説は終わります。


ネタバレになりますが、

この小説の後半部分になるとサンショウウオ達は増えすぎ為、

自分達の生息領域が不足していきました。その為、

世界各地の海岸沿いを、地盤沈下させて生息領域を拡大していきます。

その為、人類と全面対決する事になります。

しかし、人類側はまとまりません。その間、サンショウウオ達は、

どんどん地盤沈下を続けて、人類側の生息領域は縮小していきます。

しかし、最終章に入ると、

「このままにして置くつもりかい?」作者の内なる心が聞こえてきた。

という文書から始まって、小説の中に作者が登場します。

そして【作者と作者の内なる心】が小説の結末について問答を始めます。

つまり、ここから2人の作者がいきなり問答を始めて、

サンショウウオ側の設定がどんどん決まっていきます。

そして最終的には、サンショウウオ側に内部分裂が起きて、

サンショウウオ側が壊滅する設定になって、この小説は終わります。

 

初めて読んだ時は「え?こんな形で終わるの?」という感想でした。

でも今回、再読する事で最終章こそ、

チャペックが書きたかった事だと認識を変えました。


この小説が発表された時期は、第1次世界大戦と第2次世界大戦の間です。

そして、この小説の最終章でサンショウウオ側に決まっていた設定は、

東と西の対決、文明の衝突、勢力拡大などの大義名分。

そして民族主義が過激化して起きた、自民族中心主義の台頭。
つまり、第1次世界大戦後のヨーロッパの状況を、

当てはめて書かれていました。そして、この小説の大部分は、

この最終章の内容を裏付けする為だけに、書かれたのではないか?と、

自分は考えてしまいます。

カレル・チャペックは1938年に亡くなりましたが、

その1年後に第2次世界大戦が始まりました。
もし、彼が第2次世界大戦を見たら、何を思ったのでしょう?
チャペックだったら、こう言うでしょうね「ほら見ろ」と。