はぐれの徒然なるままに(仮)

肩こりと老眼が進行中の中年男性による回顧録

江戸川乱歩の「陰獣」について、更に妄想してみた➁

【いにしへは猫魔(ネコマ)と云へり、猫と云へるは下を略し、

こまといへるは上を略したなるべし、ねこまたとはその経あがりたる名なり。

陰獣にして虎に類せり】   
                             「百物語評判」3巻「徒然草猫またよやの事」の章より抜粋。


江戸川乱歩の【陰獣】という小説は、

江戸川乱歩が書いた【猫の怪談小説】だと自分は考えています。

では何故、自分はそんな事を考えたのか?
その理由について、

江戸川乱歩の寄稿文集「火星の運河」を参考にして書いていきます。

理由その➀:「陰獣」という題名の由来。
昔の人は年月が経つ事で、ある種の動物は化けると考えていました。

その為、ある種の動物の総称を「陰獣」と表現する様になりました。
(猫・狐・狸などが代表的な陰獣と言われています)
そして、この「火星の運河」の文章の中で、

【陰獣とは猫の事を指し示す】と江戸川乱歩が記述しています。

理由その➁:「猫の街」という怪談。

乱歩の寄稿文集「火星の運河」では、様々な怪談を取り上げています。

その中に「動物が登場する怪談」について書かれている箇所があります。

そして「動物が登場する怪談」の中でも、

江戸川乱歩が特に気に入っていた設定が、

【化け猫達しか住まない街に入ってしまった人間】の設定でした。

なので、この設定がある民話や怪談、そして怪奇小説をまとめて、

【猫の街】と江戸川乱歩は名付けて、

この怪談の構成について色々と書いています。

理由その③:小山田静子という人物。
「陰獣」という小説に登場する「小山田静子」という人物。

この人物の存在感と言動は、どこかあやふやな印象です。

しかし「陰獣という題名の由来」と「猫の街」が、

頭に入った状態で読むと、この「小山田静子」の印象が違ってきます。
【陰獣】という小説では【小山田静子】は、
主人公の前に唐突に現れ、主人公を奇怪な事件に巻き込み、

急に主人公を求めたと思ったら、急に距離をとる。

暫くたったらまた現れて、主人公を奇怪な事件に誘う存在です。

そして、この言動が【猫の街】で人間を猫の世界に誘う

【化け猫】とイメージが重なるのです。

以上、3つの理由から「陰獣」という小説は、

江戸川乱歩が書いた「猫の怪談小説」だと自分は考えました。


さて、「陰獣」という小説について長々と書いてきましたが、
自分は、この「陰獣」という小説はあまり好きではありません。
ただ、この小説は、

江戸川乱歩が断筆宣言をした1年と数か月後に書かれた小説です。

そして、この小説を発表して暫くした後、

娯楽要素が強い【明智小五郎シリーズ】を書き始めました。

なので、江戸川乱歩にとって【陰獣】という小説は、

重要な作品だと思ったので、長々と書いてしまいました。